プチ・シニアの明るいひきこもり生活

「未知との遭遇」とロバート・ジョンソンのクロスロード伝説との類似性について

      2016/02/01

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 今更感が半端ないんだけど、「未知との遭遇 Close Encounters of the Third Kind 」について書く。

 「未知との遭遇」という封切りの頃見て、あまりピンと来なかった。「ジョーズ Jaws」の方が圧倒的にいいと思ったから、それきりだった。それから何回も見ているんだけど、あまり印象は変わらなかった。

 ところが、最近久しぶりに見たら、というか、やっているのを偶然部分的に見たら、何か引っかかった。なんだかは分からない。また機会があったら見ようと思っていて、少し後にまた途中から見た。

 「あれっ」て思った。「これって、UFOの話じゃないんじゃないの?」いや、もちろん、表面的にはそうなんだけど。この原題の”the Third kind” って実はUFOじゃないんじゃないの?って思った。

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そこで、今度こそと、最初から最後までちゃんと見てみた。

そして確信した。ここに出てくるUFOや宇宙人は、ずばりアートの比喩だ。そうに違いない。

 そして、ロバート・ジョンソンのことがすぐ頭に浮かんだ。

 有名なロバート・ジョンソンのクロスロード伝説。一応知らない人のために書くと、ブルース・ギタリストのロバート・ジョンソンがヘタクソだったのにある時を境に素晴らしいギタリストに変身したのは、ある十字路で悪魔に魂を売る代わりにギタリストとしての天才的才能を手に入れた、という伝説だ(確か映画にもなっていた。あまりおもしろくなかったけど)。

「この悪魔に魂を売る」っていうくだりを、「未知との遭遇」の中ではこう説明している。

Have you ever looked at something and it’s crazy, and then you looked at it in another way and it’s not crazy at all?.

「何かすごくバカげたことに見えるものがあるだろ?それが、ちょっと見方が変わると全然馬鹿げて見えなくなるんだ。」

 つまり、この「未知との遭遇」は、”crazy” に見えるものが、あるきっかけで”crazy”に見えなくなってしまった少数の人たちの物語なのだ。

 ロイの隣りに住むオバサンを筆頭に、彼の家族でさえもロイが気が狂ったとしか思えない。言い方を換えると「悪魔に魂を売った」ようにみえるのだ。

 ロバート・ジョンソンだって、音楽の、あるいは、アートの真髄に気づき、その追求に駆ける姿が異様に見えたのだろう。つまり、 “crazy” にしか見えないロバート・ジョンソンを「「悪魔に魂を売った」と評したんだろう(十字路云々は伝説のための脚色だろう)。

 いや、話を焦ったかもしれない。なぜ「アート」なのか?

 ラコーム博士(F・トリフォー!)がロイに聞く、こういう質問がある。

Mr. Neary, are you an artist or a painter?
「ニアリさん、あなたは芸術家ですか?画家ですか?」

 もちろん、ロイは芸術家ではないけれど、スピルバーグもそれほど露骨には表現していない。ただ、もう一人の主人公ジリアンは明らかに画家だ。ロイだって、部屋の中に作ったデヴイルズ・タワーのオブジェの出来はかなりのものだ。明らかにアートの才能がある。

 それに、UFO。とのやり取りは、たった5音とはいえ「音楽」というアートだ。

 話がわかりづらくなった気がするので、まとめたい。

 つまり、「アート」に囚われてしまった人間は、他の多くの人が気づかないことに気づいてしまったゆえに、周りからは Crazy に見えてしまう。

 そして、周りからの非難や説得にも耐えて、アートの真髄を追求する人たちだけが、最後に真実(この場合UFO)が見える。ジリアンには奪われた息子が返ってくるという報酬が与えられ、ロイにはさらなる真実、あるいは、アートの深みを覗きこむ特権が与えられる。

 この映画のエイリアンは他の多くエイリアン物と違って全く敵ではない。敵として描かれているのはむしろ、隣のオバサンに代表される世間や常識であり、ひたすら真実を隠そうとする政府・体制だ。つまり、アートの敵は常識なのだ、

 最後に、政府が選んだ人間ではなく民間人のロイが選ばれるという筋書きも、アートの真髄が世間や体制とは外れたもの中に存在するのだと強く主張しているのだ。

 もちろん、ロイはスピルバーグの分身だ。最後に宇宙船の中に入っていくがその先は描かれない。その先にあるものは、これから撮る映画で見せてあげよう、スピルバーグはそう言っている。

 デヴュー前から天才児と呼ばれていたスピルバーグだから、映画というアートを極めたいという思いと変人扱いされること(されていたはず)への苦渋がこの映画のテーマなのだ。

 と、まぁ、別に映画評論家でもないので、間違っていても問題ないから断定的に書いてみた。ただ、少なくても「裏テーマ」じゃないのかなぁ、ちょうど「エイリアン」の裏テーマがミソジニー(女性嫌悪)と同じように・・・。

 ちなみに、私が一番好きなシーンは、部屋の中に土や植木やガラクタでデヴィルズ・タワー作り上げた後に窓から外を眺めるシーンだ。そこには、あまりにも近所のあまりにも平和な日常が写っている。

未知との遭遇 ファイナル・カット版 (1枚組) [SPE BEST] [DVD]


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