刑事コロンボ「死の方程式」
2015/08/30
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第8作目。
犯人像
犯人像が毎回変っていろんな人物像を提示しているのもコロンボの魅力の一つ。個人的には、トリックよりも大切だと思っている。
考えて見れば、面白い映画もたいてい「悪役」がすごく魅力的に描かれている。
今回は、化学薬品会社の御曹司。これまでにない特徴は「軽薄」だっていう点。Ph.D を持っているから頭はいいんだけど、いかにも御曹司っぽく軽薄なキャラだ。スプレーを撒き散らす登場シーンからしてフザケている。吹き替えは野沢那智でハマっている。
この「軽薄さ」は、ただの性格描写ではなく、おそらくよりエンディングのトリックを効果的に演出するために選択されたものだと思う。あのシーンは、冷静で思慮深い人物では盛り上がりにかけてしまうと思う。
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前作「もう一つの鍵」のベスもそうだったけれど、自分が「自分が思っているほど評価されていない」と考えている人間は、権威や地位を得ようと必死になるものなのかもしれない。
好き勝手にやらせてもらっていた御曹司が「社長」という地位にこだわるなんて、個人的には信じられないんだけどな。でも、現実的にはきっとたくさんそういうことはあるのかもしれない、殺人までは行かなくても。
私のような庶民からすると、前作のベスも今作のロジャーも、羨ましいくらい恵まれた生活しているけどね・・・。かれらは、社長という地位が手が届きそうなところに見えていた、ってことなんだろうけど。
さっき、「自分が思っているほど評価されていない」という書き方をしたけれど、考えてみれば「自分は自分が思っている通りに評価されている」って満足している人なんてほとんどいないんだから(人間てそういう生き物だよね?)、世の中に「権威」に憧れる人が多いのもわかる気がする。
トリック
コロンボのトリックはほとんど「劇場型」と言っていいと思う。
今回のように容疑者を騙して自供を引き出すケース(「殺人処方箋」「死者の身代金」)も、決定的な証拠を犯人に提示して観念させるケース(「二枚のドガの絵」「もう一つの鍵」)も。
そんな中でも、今回の設定は破格に「劇場的」だ。場所はロープウェイの中。それもかなりの高さがある。落ちれば間違いなく死ぬような高さだ。そこに爆発物と思われるもの。
乗り込むまで、重大な発見物が袋に入って何だか分からないっていう演出も、ちょっとわざとらしいけど、緊張感は増してゆく。
はじめてロープウェイに乗った時にはあれほどビビっていたコロンボが全く同様しないで、むしろ、爆弾が爆発してしまうとビビるロジャーの態度を楽しむかのように見ている。案外人が悪いのか、コロンボ。
上で書いたように、いかにも軽薄そうだったロジャーがビビって、それを対照的に平然と楽しむかのように見ているコロンボがいる。トリック自体の出来はともかく、すごく面白いシーンではある。
その他
最初に断っておくと、吹き替えが実際の英語と違うという指摘を幾つかしているけど(これまでも)、私個人は吹き替えはすごく良く出来ていると思っている。実際の英語のセリフよりもいいんじゃないかっていう吹き替えが多々ある。正直言って感心している。だから、決してミスと思って指摘しているわけではないことはここに明記しておきたい。
★スプレー
出だしのシーンで出てくるスプレー。吹き替えでは、ロジャーが作っているかのようなセリフだけど、実際は、
“You invented it?” 「あなた発明したの?」
“Oh,no. I wish I had.” 「そうならいいんだけどさ」
という応答になっている。
★コロンボの科学の点数
コロンボが科学が苦手で、「一番出来たテストで43点なんですから」いうセリフがあるけれど、実際はそんな会話はない。実際は、科学を諦め「木工 ”woodshop”」を選択し、
“You just build a bird house, and if you paint it red, you get an ‘A’”.
「だって、鳥の巣を作って赤く塗れば「A」がもらえたんですよ。」
と言っている。
しかし、この「43点」っていう数字は一体どこから出てきたんだろう?気になるなぁ。
★死の方程式
これは苦言。原題は、”Short Fuse”。「ヒューズが短い」という文字通りの意味と、「短気、かんしゃく」をかけているんだと思う。
「死の方程式」っていう邦題はすごくカッコいいタイトルなんだけど、内容的には無理があったんじゃないかな。私はそう思う。
おまけに、エンディングでも「数学みたいで。こいつは死の方程式だ。」っていうコロンボのセリフがあるけれど、元の脚本にはない。タイトルのために無理やり入れたセリフで、いかにも無理やりな感じがする。
★ニコンF
ロジャーが持っているカメラはニコンF。ついてるレンズは50ミリF2.0。なんていう美しいカメラなんだろう。このカメラはアントニオーニの「欲望」や「マディソン郡の橋」でも主役級にかっこ良かったけど(後者は映画として微妙だけど)。欲しかったけど結局手に入れることはなかった。
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