プチ・シニアの明るいひきこもり生活

Da Nang の最後の夜(後編)

      2015/08/25

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 Vietnam, Hanoi to Saigon

 自慢ではないのだが、自分は「アニバーサリー意識」に非常に乏しくて、誕生日だとか結婚記念日とか毎年ほとんど過ぎ去ってから思い出すタイプで、当然誕生日を祝うなんてことはこの何十年も経験していなかったのだが、この時はなぜか、サプライズ!しよう、バースディ・ケーキをプレゼントしよう、というアイデアが湧き出たのだ。

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 彼女が場を外した時に、マネージャーに「内緒だが」と断ってそのことを伝えると、彼もそのアイデアが気に入ったようだった。自分には大変なのでケーキの手配を頼んだのだが、満面の笑みで承諾した。「任せとけ」、彼の顔はそう語っていた。

 さて、その帰国する晩、6時ころレイト・チェックアウトし(ホテルの好意でタダだった)、いつもより早い時間に例のバーに行き、飲み始めた。ほどなく「22才になったばかり」の彼女が現れたが、全くいつもの様子で、ケーキのことはバレていないようだった。バーはいつになく混んでいて、従業員はてんやわんやだった。マネージャーは来ない。彼女も手が足らなくて怒っている。

 8時を過ぎた。マネージャーはまだ来ない。9時には、空港へ向かうタクシーに乗らないと行けないので、ちょっとそわそわしてくる。彼女に、「マネージャーはまだ来ないの?」って尋ねると、電話してるけど出ないって、渋い顔した。そうしているうちに、お客も一段落し、他の従業員たちも私の周りにやってきて、「今度はいつくるの?」とか「名残惜しい」モードを醸し出し始めた。

 8時半をまわった頃だ。「あのオヤジ、ケーキの金だけ預かってネコババか~」って不信がむくむく湧き上がる頃、マネージャーは満面の笑みでケーキを抱いてやって来た。私もさっきまでの不信はなかったかのように、笑みを浮かべ握手した。

 当の彼女が「え、今日は私の他にも誕生日なの?」って声をあげたので、秘密は守られていたということがわかった。

 “This is for you, for your birthday”

 というと、彼女はカウンターの中から飛び出して、私に抱きついて来た。彼女に言った。

「これはあなたのためのバースデイ・ケーキだけれど、本当の所はここにいるみんなと楽しく過ごせたから、そのお礼なんだ。感謝の気持ちなんだ。だから、これはみんなで分けて食べてほしい。みんなにもそう伝えて欲しい。」

 9時になり、従業員それぞれとハグして(マネージャーのオヤジとも)、別れのあいさつをした。ウエイトレスの子は、グーグル翻訳でほんの少しのやり取りしただけなのに、何故か、目に涙を浮かべていた。マネージャーが、笑顔で肩に手をやって慰めた。

 タクシーに乗り、バーを遠目に見ながら、私は空港へと向かった。

 タクシーの中で、ケーキに誕生日の彼女の名前と私の名前がちゃんと入っているたのを思い出して、案外あのオヤジやるなぁ、って思ったら、笑いがこみ上げてきた。


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 - 消えそうな旅の断片 , ,

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