プチ・シニアの明るいひきこもり生活

映画「カポーティ」から映画「冷血」、そして原作「冷血」への短い旅

      2016/01/31

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 以前から見たかった「カポーティ」をやっと見た。続けて、映画「冷血:を見て、最後に原作を読んでみた。

 まず、先に「冷血」で扱われた事件を説明しておきたい。3行で説明するとこんな感じ。

・カンザス州で起きた凄惨な一家惨殺事件。
・犯人は、ディックとペリーという若者2人。
・犯人は死刑になる。

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「カポーティ ( Capote )」

 この映画は、カポーティが「冷血 ( In Cold Blood )」の着想を得て書き終えるまでの姿が描かれている。私の大好きなフィリップ・シーモア・ホフマンがカポーティ役というだけでワクワクする。

が、

 飽きずに最後まで見られたから、面白いといえば面白かったんだけど、正直言って、私にはあまりピンとこなかった。期待が大きかったせいかもしれない。P・S・ホフマン演ずるカポーティ、上手いのか、似ているのか、私にはよく分からない。カポーティのキャラが濃すぎて、彼のいつもの演技の繊細さが見えなくなっている気がする。多分、似ているんだろうけど。
 あと、これはカポーティを扱っているせいだと思うけど、ちょっとスノッブでインテリっぽい感じが鼻についた。もちろん、これは私が貧乏人で頭が悪いための僻みからくるものだけど。

 後作品との比較のために書くと、犯人2人のうち、ペリーの方に大きく比重が置かれている。ディックはたんなるチンピラのような描写しかない。

映画「冷血」

 続けて映画の「冷血」を見てみた。
 古い映画だけれど、よく出来ていて面白かった。個人的には「カポーティ」よりもこっちの方が楽しめた。

 最近は、「羊たちの沈黙」、「クリミナル・マインド」のような連続殺人・サイコパスものが溢れているので、この「冷血」の事件そのものはどちらかと言えば「地味」に思えてしまう。

 犯人2人については、やはりペリーの方に多少比重が置かれて描かれているけれど、映画「カポーティ」ほど極端ではない。2人の犯人、異なったキャラの2人の犯人、という感じで描かれている。 

 原作を読んでから振り返ると、なんであのエピソードを選んで、なんでこのエピソードを使わなかったんだろうとか、気になったするけど、これはあくまで私の個人的な嗜好の問題であって、概ねうまく映画化してあると思った、原作の情報量は余りにも多いから。

原作「冷血」

 そして最後に原作。

 私は、短篇集しか(「夜の樹」とか)読んだことがなかったので、「冷血」は初めて読んだ。なんとなくカポーティのスタイリッシュで、繊細で幻想的な文章と、実際の(生臭い)殺人事件があまりうまく折り合わないんじゃないだろうかというレベルの低い思い込みがあったからだ。反省。

 この本は超面白い。面白すぎる。はっきり言って、上の映画2作は霞んだ。

 上にも書いたけれど、現在からみるとそれほど事件自体はショッキングではない。60年以上経って世の中の変容の中で、事件としての意味は明らかに変わった。だけど、人間はそれほど変わっていないんじゃないかと思う。だから、膨大なインタビューから組み立てられたこの事件に関係した人物の描写、エピソードは今でも面白い。半端無く面白い。

 2人の犯人、そして、被害者の一家4人について、非常に細かく、ある意味偏執狂的に細かく描写されている。そのエピソードのすべてが(ほとんどじゃなくてすべて!)が非常に面白い。警察関係、刑務所の人々、犯人や被害者の友人、ただその事件の町に住んでゴシップしているだけの人物も面白く描かれている。

 そして、それらが、綿密に考えられた構成と、控えめとはいえ時たま挿入されるため息が出るほど美しい文章で語られる。

 映画「冷血」は上映時間という物理的な制約のために、原作のエピソードを取捨選択選択せざるを得ないという点で、はじめからこの原作より劣る宿命があったと思う。

 犯人のペニーについて。カポーティも友情に近い思い入れを感じていたと思われるけれど、ペニーという人間の描写の中に私も自分と共通する点を感じざるを得なかった。いや、私だけじゃないと思う、ペニーについてこの本の中で語られる多くの言葉のどれかはほとんどの人が共感を感じるのではないかと思う。今でも。

 最後に、映画「カポーティ」についてあまり否定的なところから始めたけれど、この作品が撮られてなかったきっと私が原作「冷血」を読むのはもっと先になったと思う、あるいは読まずに死んでいたらだろう(可能性は高い)。もしかして、そういう人が多いかもしれない。

そういう意味で、映画「カポーティ」は貴重なな作品であると思う。




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 - 遅れてきた映画鑑賞 , ,

 

Comment

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  1. Lingo-Field より:

    Capote独特のしゃべり方,態度などを,単にモノマネではない演技に見事に昇華したことで,アメリカでは評価された,というのは,よく分かる気がします。思想や考え方は全然違いますが,単にしゃべり方の独特さという点だけを取れば,日本で言えば,演技派の俳優が大江健三郎さんを見事に演じた,というところでしょうか。でも私もGagattaと同じく,Capoteの「ひととなり」には共感できませんでした。

    • hotbeard より:

      コメント、ありがとうございます。
      大江健三郎という例えは、素晴らしいですね。その通りですね。
      昔の(!)ロック・ミュージシャンなんかの破滅的な生き方も嫌いじゃないし、Capote のセレブ・チック(ヒドい造語)な生活もバックグラウンド的なものを考えるとうなずけるんですけど、あの映画の中のカポーティは個人的にはピンと来なかったという感じです。思い込みかもしれないですけど。

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