久しぶりに「真夜中のカウボーイ」を見た、じゃなかった「真夜中のカーボーイ」だ!
2016/08/08
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“Midnight Cowboy” なら「カウボーイ」が正解だと思うけど。
それはともかく、私はもうとにかく「アメリカン・ニュー・シネマ」と称される作品群が大好きな人間なので、もう賞賛の言葉しかでてこない。久しぶりに見たらやっぱりほんとにいい。
思ったのだけれど、「アメリカン・ニュー・シネマ」と称される作品群に共通しているテーマは「社会に対する疎外感」だと思う。「俺たちに明日はない」にしろ、「イージー・ライダー」にしろ「明日に向って撃て!」にしろ。「卒業」だってラブ・ストーリーとはいえ、ほぼ手に入れたエスタブリッシュメントへの拒絶なわけだ。
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そんな中でもこの「真夜中のカーボーイ」はある意味強烈。ある意味っていうのは、彼らには人も殺せないし、華々しく散る結末も用意されていないし、もちろんオープンカーも持っていない。
ただ、社会の底辺でチンケな泥棒をしなかがらその日を精一杯生きていく。
ジョン・ヴォイト演じるジョーは、皿洗いなんかできるかってテキサスを飛び出し、ニューヨークにやって来る。自分はハスラーだ、女性を喜ばして金を貰う、と彼の目算は、当然ながら簡単に打ち砕かれる。
ジョーは鏡を何度も覗き込む。そして語りかける。そこにだけ自分を拒絶しない世界があるからだ。
主題歌の中に、「俺の心の声しか聞かない」という部分がある。鏡の中の自分だけに耳を傾けるのだ(最後に引用)。
一方、ダスティン・ホフマン演じる「リコ(リゾ、ラッツォ)」はもっと悲惨だ。彼は人を騙したり、食べ物を盗んだりしてニューヨークの掃き溜めのようなところに住んでいる。足も悪いし、おそらく女性も知らない。
そのリコにとって、ジョーの鏡に当たるものが、太陽だ。フロリダの太陽。彼はそれだけを夢に今を生きている。
彼は言う。
The town basic items necessary to sustain life are sunshine and coconut milk.
「生きていくのに必要な物が2つある。ひとつは、太陽の光で、もう一つはココナッツ・ミルクさ。」
そして、有名な、素晴らしいシーンがある。
リコがジョーと共にマンハッタンの町中をお足をひきながら歩いて行くシーンだ。リコはもう少しでタクシーに轢かれそうになる。ボンネットを叩きながらリコは叫ぶ。
“I’m walking here. I’m walking here.” 「ここを俺は歩いてるんだよ、ここを。」
私には「俺は生きているんだよ、ここで。お前らは俺のことを虫けらのように思っているかもしれないが、俺はここでちゃんと生きてるんだよ。」、そう叫んでいるように私には聞こえる。涙なしには見られない。
余談だけれど、このシーン(セリフ)は、オマージュとしていくつかの映画で使われている。有名なところだと、「アメイジング・スパイダーマン」(”I’m swinging”だけど)、「バック・トゥ・ザ・フューチャー Part2」。そして極めつけは「フォーレスト・ガンプ」。足を失ったゲーリー・シニーズ演じるダン中尉がマンハッタンを同じように通りを渡る。親切にも主題歌まで流れる。
さて、おそらく死期を予感したリコはマイアミに行こうとする。
映画の始まりがバスであったように、映画の終わりもバスの中だ。
途中、ジョーはそれまでに頑なに着続けていたカウボウイのシャツやブーツを着替え、ゴミ箱に捨てる。彼のそれまでのアイデンティティとおそらくプライドを捨て去った瞬間だ。彼の表情が変わるのがわかる。
ジョン・ヴォイトは今ではアンジェリーナ・ジョリーの父親としての方が有名かもしれないけど、この役ははまり役。ちょっとオツムは弱いけれど(“money”)のスペルを知らないくらい)、人のいい若者を好演している。
ダスティン・ホフマンは凄すぎるくらい良い。彼の演技では一番かなと思う。私が好きなのは、ショーウインドウをバックにジョーがうまくいくかどうかを待っているシーンだ。あの表情が良い。
最後に主題歌。ニルソンが歌う「うわさの男 “ Everybody’s talkin’ “」。この歌はもともとはラブ・ソングだったらしい(別の人の曲)。でも、歌詞を見てみると、全く主人公のジョーのことを歌っているとしか思えない。
Everybody’s talking at me 「誰もが俺に語りかける」
I don’t hear a word they’re saying 「でも一言も耳に入ってこない」
Only the echoes of my mind 「俺に聞こえるのは俺のこころの声だけさ」
I’m going 「俺は行くんだ」
where the sun keeps shining 「いつも太陽が燦々と輝いているところへ」
Through the pouring rain 「この土砂降りの雨を通り抜けて」
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Comment
コメントはこちらが承認するまで表示されません。YouTubeで見ることのできるWatchMojo.comでTop 10 Improvised Momentsという,映画の名アドリブシーンを紹介する中の8位として,タクシーに轢かれそうになるシーンを上げていました。本当に脚本になかったのかどうかには論議があるようですが,ダスティン・ホフマン自身はアドリブであった,と主張しているようです。そう言われて見てみると,予想外の出来事にもかかわらず,彼お得意の手法で演技し続けるホフマンに,ジョン・ヴォイドが少々戸惑っているようにも見えます。それがまた,ジョーという役柄の純朴さにつながっていて,いい味を出しているような気がします。
コメントありがとうございます。
早速、WatchMojo.com 見てみました。”Taxi Driver” のあのシーンが6位、というか Improvised なのが驚きました。一番好きな映画なんで。
ダスティン・ホフマンだとちょっとどっちかわからないですね。いずれにしろ名場面ですよね。
ゲイリー・シアーズじゃなくてゲイリー・シニーズね。
ホフマンは演技めちゃうまいすね。『レインマン』で主演男優賞は納得だけどあれ、主役はトム・クルーズなんですけどねぇ。準主役でも主演になるのかどうか疑問w。
『真夜中のカーボーイ』は悲壮感漂う内容だとは思わなかったからちょっとびっくり。リコのタクシーの運ちゃんにに文句言うシーンは胸に刺さる。
コメントありがとうございます。
「シニーズ」ですね。ご指摘ありがとうございます。サージェント・ペパーズの「ビリー・シアーズ」の印象が強くて、つい間違えてしまいます。
ダスティン・ホフマンは、二枚目じゃないハリウッド・スターのはしりですよね。