プチ・シニアの明るいひきこもり生活

派手ではないけれど、心のどこかに居続けるような佳作 「僕たちのムッシュ・ラザール」

      2016/01/31

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「さよならを言わずに去っていくのは、自殺するのと同じことだ。」


 カナダの映画だ。

 モントリオールの小学校を舞台に、教師が教室で自殺したことに傷つく生徒たちと、後を受けたアルジェリア人の教師ラザールとの物語。

 こうストーリーだけまとめると、過度な情感を盛り込んだ湿っぽい映画と思われてしまうかもしれないが、そんなことはない。決してウェットにならないようにコントロールされている。

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 これは、喪失の物語だ。好きだった教師を失った二人の生徒、家族を失いアルジェリアから逃れてきた教師、彼ら3人がその喪失とどう向き合っていくかがこの物語のテーマになっている。

 冒頭、雪の積もった校庭で遊びまわる生徒たちの映像の後、映画はほんの短いショットで首を吊っている教師の姿を写す。ショッキングなシーンだが、その後カメラはしばらく廊下にとどまり、教師に報告にはしる生徒の後ろ姿、やってくる教師の慌てふためく姿を実に静かに、まるで別世界のことであるかのように淡々と映し続ける。

 先ほどあげた生徒二人とは、首を吊っている教師の発見した男子生徒と、そして、つい教室を覗きこんでその姿を見てしまった女子生徒だ。

 彼らは、他の生徒達とはまったく違う密度で「教師自殺」その後を過ごさざるを得なくなる。

 また、自ら志願しそのクラスの教師となったラザールも、同じ「喪失感」を生徒たちと共有しようとするのだが、古いシステムを生きてきた彼にはモントリオール(というより、欧米の)システムにうまく溶け込めない。

 例えば、生徒たちの机が教師の方を無いて整列していないことにも彼は違和感を感じる。また、ちょっとしたいたづらで生徒を叩いてしまうけれど、もちろん、モントリオールの学校では許されない。

 生徒に触れることは決して許されないのだ。

 徐々に、ラザールはクラスとうまくやっていくようになるけれど、結局、実はアルジェリアで教師をしていたというのは嘘だということがバレてしまう。

 ラザールは辞めざるを得なくなる。校長は今すぐ、と要求するが、その時に言う彼のセリフが冒頭の引用だ。

 彼は、最後の授業を行うことを許される。彼は、とても印象的な寓話を生徒に語ることで授業を終える。ここでは引用はあえてしない。

 ラストシーン。ラザールの話を聞いて、その意図を感じ取り教室に一人いるラザールに近づく。

 彼らは何も言わずにハグをする。

 そうなのだ、「たかが」ハグなのだ。それが、こんなにも感動的なラストシーンを生み出すことができるのだ。

 生徒との肉体的接触を禁じられた教師にはハグは許されない。しかし、そんなシステムの中では決して収まり切らない感情や感性も私達は持っている。ラザールと女子生徒のハグが私達に伝えるのは、そんなシステムの枠を自然にはみ出てしまう感情の真摯だ。そして、その真摯だが私達の心をうつ。



 補足:この映画のキャッチコピーが「いちばん大事なことは、教科書には載ってない。」らしいのだが、これはいただけない。これを知ってたら私ははっきり言って見なかった。こんなコピーにひっかかるのは、きどったエセ文化人の観客だけだと思う。


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 - 遅れてきた映画鑑賞

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